ますもの。」と、新子は、笑いながら云った。
「はははは、じゃア、もう少しご一緒に居て頂いても構いませんね。シネマでも見ましょうか。僕と一しょじゃいけませんか。」
「いいえ。どうぞ。」新子も、もうしばらく準之助氏の、やさしい言葉に慰められていたかった。
「どこがお好きなんですか……?」
「帝劇なんかで観るのが好きなんですけれど、……いま、何を演《や》っておりますかしら……?」
と、云うと、準之助氏は、立って行って、ロビーの隅に置いてある、新聞の綴《とじ》こみを持って来ると、広告欄を開けて指を辿り始めた。
「『裏街』ってのを、演《や》っておりますよ。」
「あ、それは、たいへん評判の映画でございますわ。」
新子は、一ト月前ぐらいに、予告で筋を知っている、可憐な、アメリカのお妾《めかけ》物語を、もう一度頭の中に浮ばせて、人知れず、胸をときめかせながら、
「それ、ご覧になります……?」と、われから誘うように、準之助氏を見上げた。
三
帝劇を出たときは、ちょっとの間、夕霽《ゆうばれ》にあがりそうに見えた空も、また雨は銀色の足繁く降り出して、準之助氏のラサールという、素晴ら
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