中に鬱積した思慕の熱情といったものが、ふつふつとして、たぎるのを聞く気がした。新子は、身体中が熱くなり、じっと坐っていられないようななやましさを感じた。
「ですから、どんな誓言でも、どんなお約束でも致しますから、僕に世話をさせて頂けませんか……」じっと、見つめられた眸の強さに、新子は眼をしばたたきながら、
「まあ……そんな心配なんか致しませんわ……心配しているのは、私自身の心ですわ。私、あまりお世話になっていると……」新子は、そこまでいって、食後のマスカットの一粒を、そっととり上げた。
「だから、お互に邪心なく、天空海闊に、お世話になったり、世話をしたりしようじゃありませんか……月も濁らず、水も濁らず……」
「そんなこと出来ませんわ。またいつどんな夕立が来るかも分らないんですもの。」と、新子は恥かしげに微笑した。
二
「はははは。」準之助も、新子のユーモラスないい方に、うちとけて笑いながら、
「だから、お互に、これからどんな夕立にも、一しょに降り込められないよう、気をつければいいと思います。殊に僕は必ず慎みますよ。」と、心に誓うようにいった。
額で、準之助氏の視線
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