て一家を支えようなどということは、妄想に近かった。
新子が、伏目になって黙っていると、準之助氏は続けていった。
「お姉さんの演劇熱の後援も、僕は欣んでやりますよ。しかし、僕はその十倍も、百倍もの熱心さで、貴女の生活の後援がしたいんです。そして、貴女の生活を安定して、貴女に幸福になっていただきたいんです。でないと、僕は一生寝ざめがわるいですからな。」
「そんなに、お世話になる筋はございませんもの……今までだって、余分なことをして頂いたんですもの。」
「いや、筋がなければ、こちらでお願いしますから、そうさせて頂けませんか……」準之助氏の頬が、青年のそれのように、あかあかと輝いた。
「僕は、何かの意味で、僕の傍《そば》から貴女に離れて頂きたくないんですよ。貴女をお世話したため僕が貴女に、何かを求めやしないかというご心配なら、どうぞご無用にねがいたいのです……この間の夕立のときのことは、僕も全く発作的で、貴女にどうおわびしていいか……あの償いのためにでも、僕はあなたのために、どんなことでも致したいのです。その代り、このままで、路傍の人にだけはなって頂きたくないんです。」
中年の男子の、胸の
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