のある水商売の方が、やはり女の人には向いていると、云わなくてはいけないでしょうな。思い切って、『酒場《バー》』か『喫茶店』――この頃、銀座に流行《はや》っていますな――ああいうものを、やってみては如何《いかが》ですか。」
「はア。」
「もっとも、お始めになる意志が、おありになれば、僕がよく人に頼んで、場所も経営方法も調べさせておきましょう。」
「はア、でも、そんなにまで、お世話になることは、ございませんもの。何かまだ、私が働けるような口でも、ございましたら……」と、新子は婉曲に断った。
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密会の如し
一
新子が、婉曲に断ろうとするのを、準之助氏はてんで受けつけず、
「いや、就職口を探せとおっしゃるのなら、僕はどうにでもして探しますが、しかし現在の女事務員の月給なんて、結局三、四十円ですからな。貴女《あなた》一人のお化粧代と交通費になるかならないかですからな。……もっとも、貴女お一人の小づかいさえあればとおっしゃるのなら、それで問題はありませんけれど……」
そういわれてみると、その通りだった。結局特殊の技能を持っていない限り、女一人で働い
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