ていらっしっても、追《おっ》つかないじゃありませんか、何か、ご商売でもお始めになった方がいいじゃありませんか。」
「ほんとうに……」新子は、目を伏せて、こんな親切な人が母方の伯父ででもあったら、どんなに好都合だろうかと思った。
「でも、女のする商売って、どんなものがございましょうかしら、それに……」
(資本金も要りますし)と、いう言葉を、差し控えた。
「僕も、どんな商売が女性に向いていて、有利か研究したことはありませんが、まあ場所を撰《えら》んで『酒場《バー》』を出すか、『洋品店』をするか、洋裁の心得のある方だったら、婦人、子供洋服の店を持つとか……」
「………」
「婦人雑誌に、そんな記事が時々出ているようですが、レコードを売る店なんてどうでしょう。小ギレイで……」
準之助氏は、好意ずくめのよい人であるし――またその好意の根に、一々野心のわだかまっているような性質の人でないことは、ハッキリ分っていても、この相談に乗って、この上ともこの人の世話になることは、自分で退引《のっぴき》ならぬ羽目に自分を追い込んで行くような気がした。
「因循|姑息《こそく》な地味な商売より、当りさえすれば儲け
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