貴女がもし、あのまま、僕と会って下さらないとすれば、せめて縁につながるお姉さんの仕事でも、後援して貴女に対する自責の心を、少しでも慰めようと思っていたくらいです。」
「まあ!」新子の気持は、だんだん準之助氏の言葉によって慰撫され、甘やかされていた。
「今日はまるで、思いがけなかったのです。もう、あきらめて明日は、軽井沢へ行って、女房と替ろうと思っていたのです。だから、どんなにうれしかったか知れやしません。ねえ、新子さん。」初めて親しく名を呼んだ。
「何でございます。」
「貴女、何かご自身でやってみたいとはお考えになりませんか。」と、しんみり訊かれた。
七
デザートのハネデュウ・メロンをスプーンですくい上げながら、
(何かしませんか……)と、云ってくれた準之助氏の言葉を、新子はいぶかしげに、眼で訊き返した。
「お姉さんの外に、妹さんもおありになるんでしょう。」
「はア。」
「あのお姉さんは、生活なんて、てんで考えない方でしょうし、妹さんはどうですか……」
「………」新子の顔に、苦笑の影が浮びかけて消えた。
「妹さんも、頼りにならないのでしょうな。と、貴女独りで、働い
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