てておいて頂きたいんですの……」
「それが、そうは行きません。僕には……」肩のこりの除《と》れるような、遠慮のない会話になり、新子は準之助氏に会ってよかったと思った。
「なぜでございます。」
「なぜって、僕は今まで、あまり道楽のない男だったんですから、月々ある程度の出費は、何とも思いませんし、貴女のお姉さんを後援するなんて、僕にとっては嬉しいことですし……それに圭子さんは、僕を演劇愛好家に定《き》めてしまっているんだし……」
「まあ、いやだわ。姉が、つけ上るはずですわ。」と、いったが、しかし新子は準之助の鷹揚《おうよう》な気持が、うれしくなって、つい笑ってしまった。
「それに考えてみると、僕という悪い人間は、貴女を失業させたことに、なっているんだから、どんなにしても、その償いをしなければいけないし……」
「あら、そんな理窟なんか、ございませんわ。」
「ありますとも、大有りですよ、圭子さんが見えた次の日、僕は貴女の手紙を見て、悄《しょ》げてしまいましたよ。これぎりじゃ、僕は貴女を、たいへん不幸にしたことになるんですもの。だから、これぎりになるなんて、僕はたまらないと思いましたよ。だから、
前へ
次へ
全429ページ中240ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング