どうぞ……」
「じゃね、ポタージュ、お魚のムニエール。マカロニ・ア・ラ・イタリアン。それだけ貰おう。」給仕は下って行った。
「先日は、姉が突然伺いまして、ほんとうに申し訳ございません。」新子の顔は、恥じらいで赤くなっていた。
「いや、僕は、貴女の代りに、お姉さんが来て下さったことも嬉しかったですよ。」すらすらと苦笑まじりに、そう云う準之助氏の言葉に、
「え?」と、新子が眼を上げると、
「そのくらい、僕は貴女をお待ちしていたと云いたいのです。」
と、冗談めかしく、サバサバ云ってのけて、準之助氏は、新子に姉についての詫言など、云わせまいとする。
「あの晩、僕、すぐ貴女を駅まで、追いかけたのですよ。女房の容子で、貴女がどんなに嫌な気持で、帰られたかがよく解りすぎて、僕もとても厭な気持でした。だから、翌日、軽井沢を引き上げて来たのです。」準之助の気持も、新子の顔を見た時から、興奮し、はずみ上って、何となく浮々としているらしかった。
「お待たせしました。」給仕が、食卓の用意の出来たことを知らせに来た。二人は、ごく親しい連れのように、食卓に着いた。こうした寛《くつろ》いだ気持になったのは、初めて
前へ
次へ
全429ページ中238ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング