なんか受けないわよ。」
そう云うと、圭子はサッと、隣の部屋へ引き上げて、聞いていた境の襖をピシリと音を立てて閉ざした。
四
新子は、姉と云い争ってから、すぐにも前川氏を訪ねて詫を云い、そのついでに、今後は一切かまってくれないように、頼んでおかないと、姉がいい気になって――また自分への意地も手伝って――何をし出かすか分らないと思った。
しかし、準之助氏に電話をかけようと思うと、あんな手紙を書いた後だけに、何となくわだかまりが出来て、つい三日ばかり経ってしまった。
東京へ帰ってからの、打ちつづく悲しさ腹立たしさに、食慾が衰え、新子は急にやせてしまったように、思われた。
夜は、美和子と床を並べて寝るので、妹が黙っているにつけ、喋るにつけ、その背後に在る美沢のことを考えて、いつまでも心が冴え、やがて思考から来る疲労と悲哀の圧力とで、押しつぶされたように睡眠に入るのは、いつも二時過ぎだった。朝は、夜の間にわれ知らず流した涙がにじみ拡がって頬をぬらしているのだった。
今朝は、部屋の中が暗く、いつものように暑くなかった。美和子は、心地よさそうに眠っている。起きて、窓か
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