。私の姉の貴女だから、お金を呉れたのよ。あの方、演劇愛好者でも何でもありゃしないわ。そんな、空論で私をゴマかそうとしても、駄目だわ。」
「貴女の云っていることの方が、よっぽど空論だわ。俗人の余計なおせっかいだわ。」
「私の云っていることが、おせっかいと思うのなら、私お姉さんを軽蔑するわ。お姉さんみたいのが、役者馬鹿と云うのだわ。昔の千両役者のように、お給金を沢山取っているのなら、お金の勘定も知らないような役者馬鹿も愛嬌よ、他人に迷惑がかからないんだから。お姉さんなんか、まだ役者になり切らない先に、役者馬鹿になられたら、傍《はた》の者がたまらないわ。私が送ったお金をゴマかすなんて辛抱するわ。私の迷惑になるようなお金を、他人様から貰って来ることだけは、かんにんしてもらいたいわ。……お金が、そんなに必要でしたら、私の知らない演劇愛好者から、いくらでもお貰いになるといいわ。前川さんからだけはよして頂戴ね。」
「………」
 姉は、すねて口をきかなかった。
 新子は、やや言葉を柔らげると、
「ね、返して来て頂戴! 家へ持って帰ったら、新子に叱られましたからと云って!」
「バカバカしい。あんたの指図
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