あの電報を見ただけでも、腹が立ったわ。まるで、滅茶なんですもの。私は、すぐ断りの電報を打つつもりであったの。ところが、前川さんに、あの電報が来たことが分ってしまって、色々に云って下さったから、ついお姉さんの出鱈目《でたらめ》が成功したのよ。でも、あれだけで、もう沢山じゃないの。たった、半月かそこら、お世話になった前川さんに対して、あんなご恩になることだって、随分肩身が狭いじゃないの。それだのにこれ以上、お姉さんは、何をなさろうと思っていらっしゃるの。私に、前川さんの前で、顔も上げられないような、口も利けないような、恥かしい思いをしろと、おっしゃるの、お姉さんには、受けてはならない人の恩を受けるということが、どんなことだか分らないの!」圭子も、唇の血の気がなくなるほど、蒼くなりながら云い返した。
「分っていればこそ、貴女の代りにお礼に行ったじゃないの。」
「だったら、なぜ、お礼を云っただけで帰って来ないの、物ほしそうな顔をして、そんな大金を貰って来るの、まるで、泥棒猫が、投げてくれた魚の骨に味をしめて、ノコノコお座敷へ上り込んで行くような恰好じゃないの。図々しいにも程があってよ。」
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