立ちの殺気を含んでいた。
「何よ。」圭子は、あくまでシャアシャアと、眼元で茶化しにかかるのを押えて、
「お姉さんのすることは、まるで乞食か、泥棒のようだわ。」と、鋭く罵《ののし》った。
「何が……」と、あまりにひどい言葉づかいに、さすがの圭子も、色を変えて、白けかえった。
「乞食よりも、泥棒よりも、もっとひどいわ。泥棒だって、親姉妹のものなんかは、盗《と》りはしないと思うわ……お姉さまは……お姉さまは……」新子は、押えても湧こうとする悲憤の涙を、グッと呑み込みながら、
「お姉さまは、私がお母さまに送ったお金まで、無断で盗ったじゃありませんか。」と、云い切った。姉には、このくらい思い切って云わなければ通じないと思ったし、一方つもりつもった鬱憤が、一時に爆発したのであった。
圭子は、思いがけなくも、自分の弱点を突かれると、普通の応対では敵《かな》わないと思ったらしく、たちまち不貞腐《ふてくさ》れて、眉一つ動かさず、(それがどうしたの?)と云うような顔をして、新子の視線を受けかえしていた。
「そして、あんな非常識極まる電報をよこして……私が、何をしに軽井沢へ行っていたと考えていたの。私は、
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