よくなったわ。」と、厭味を云ってから、重ねて、
「でも、もうこれから、前川さんのところへお芝居のことで、話しになんか行ったら、私本気で怒るわよ。」と、つけ加えた。
「そんなこと、今更云ってもダメだわ。前川さんのようないい方ないわ。今日、私この前のお礼しか云わないのに、黙って研究会へ寄附して下さったのよ。随分沢山なお金を……」
「まあ!」新子は、険しい顔で、姉を見上げた。
「そんなに、私に怒ってもダメだわ。私個人で頂いたんじゃないんだもの、研究会へ下さるとおっしゃるんですもの。私一人で左右すべきものじゃないんだもの。」と、新子の非難を外《そ》らそうとする姉を、新子はうらめしく睨《にら》みながら、
「一体いくら頂いたの?」と、詰《なじ》った。
「驚いたわ。私ね、二、三百円だろうと思ったの、それが、そうじゃないの。だから、あまり軽く頂きすぎたと思って後悔しているの。」
「それを、お姉さまは、私と関係なしに貰ったとおっしゃるの?」新子の声は、ふるえていたが、
「まあ、そうよ。」と姉はすましていた。

        二

「お姉さんッ!」正面に見据えて、こう呼びかけた新子の声には、押え切れぬ腹
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