新子さんにも、お目にかかりたいんですが、そう貴女からもお伝えして頂けないでしょうか。」と、圭子はちょっとあわてて、
「あら、だって先刻も申しましたとおり、私新子に内しょで伺ったんですもの。でも、いいわ。私、それとなく新子に、早くこちらへお伺いするようにすすめますわ。」と、上目づかいに企まざる媚《こび》が溢れた。
「どうぞ。」
「それから、新子のことですが、奥様に何かお気に入らないことがあったそうですが、家庭教師の方がいけないようでございましたら、何か外に適当な……」と、初めて姉らしいことをいいかけた。
 準之助は、にわかに真面目な顔になり、圭子に皆までいわさず、
「はあ、それはもう。僕は全力をつくして、あの方のために計るつもりです。」といい切った。
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  重なる負目




        一

 初めは、美和子かと思ったほど浮々と上機嫌で、ジャズを鼻音で唄いながら、二階へ上って来た姉が、いきなり新子の部屋に、ニコニコした顔を見せると、
「私、驚いたわ。」と、いった。
「何が……」と、新子が、ぼんやりしていた顔を上げると、
「貴女《あなた》に、内緒にしておこうと思ったん
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