ほんとうにお礼にだけ、伺ったんですもの。困りますわ。公演が近づきましたら、ご無心に上るかもしれませんけれど、今からこんなにして頂くなんて、いけませんわ。」
「いいじゃありませんか。公演の時は、公演の時として、また切符をお買いしましょう。これは、基金のような意味で……」
「でも……」と、云いながら、圭子はしばらくもじもじしていたが、
「どうぞ、お収め下さい!」と云う準之助の言葉に、圭子は一大決意を示したような表情で、
「じゃ、私個人としてでなく、研究会へ下さるものとして、頂戴してもいいでしょうか。」と、云った。妹に、文句を云われた場合に、自分の責任を軽くするための準備であろう。
「それで、結構です。」と、準之助が、微笑しながら云うと、
「では、有りがたく頂戴致しますわ。」と、云いながら細いきれい[#「きれい」に傍点]な指で無造作に、その封筒を取り上げると、舞台から持って来たような眼顔で会釈をして、ハンドバッグの中に収めた。
その封筒を収めてしまうと、さすがの圭子も、自分本位のおしゃべり[#「おしゃべり」に傍点]をしばらく中止したので、準之助氏はやっと、こちらの云いたいことを云った。
「
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