風に賞められると、かえって何だか頼りない気が致しますの。九月には、モルナールのものをやることになっていますの、その方が私の柄にあうんじゃないかと思っていますの。」
「はア。」準之助は、圭子の絶間ない饒舌に、少し辟易《へきえき》しながら、シガーに火を点じた。
「もう、明後日から稽古にかかることになっておりますの。劇団にはお金はちっともありませんし、この間の興行の借金が、結局いくらか残りましたし、今度はうんと切符を売らなければなりませんの。」言葉尻が、みんな子供のような笑顔で、消えてしまう女だった。
「僕も出来るだけ、後援致しましょう。」準之助は、半分義理で、半分好意でそう云った。
「あら! いいえ、そんなつもりで申し上げたのじゃございませんわ。」と、パッと小娘のように、顔を赤くした。

        六

 顔を赤らめた圭子の、お喋りはしていても、どこか初心《うぶ》なところのある容子《ようす》に、準之助は好意を感じて、ニコニコ笑っていると、圭子はまた喋り出した。
「私達の会にも、筒井子爵の息子さんが、パトロン格でいらっしゃりましたの。その方が、費用なんか持つとおっしゃるので、その方を当
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