、四であろうのに、新子よりもむしろ妹に見えるほど、整い過ぎた美貌で、しかも笑うとたちまち子供じみてしまって、いうことも世間知らずな、お嬢さま気質が染みついていた。
「私、どうしてもお礼に伺わなければ、気がすみませんでしたの。ほんとうに、あんなに後援して頂きまして、有難う存じました。何か持って参ろうと思ったんですが、まだお目にかかったことがないので、どんな物が、お気に召すか分りませんので、お花ならと思いまして……」と、パラフィン紙の中から、強烈な匂いをこぼしている、アメリカン・ビュウティと呼ばれる赤みを含んだ黄バラの花束を、準之助の前に差し出した。
 若い女性から、花束を贈られたような例のない彼は、微苦笑を浮べて、
「これは、どうも恐縮ですな。」と、いいながら受け取って、炉棚《マントルピース》の大理石の上に、人形でも横たえるように、大事に花束を置いた。
 そして、席に帰ると、
「新子さんは、ご病気ですか。」と、先刻から気にかかっていることを訊いた。
「いいえ。私、新子にも内緒で、お礼に伺ったんですの。新子は、直接お礼に行ったら、いやだと申したのですが、私の気持として、お礼に参らずには、居
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