と、
「何て云ってよこしたの、貴女にすぐ帰ってくれと云うんでしょう……」だまっていると、もっと余計なことを云いそうなので、
「ほんとうは、私奥さまと喧嘩をしてしまったの。ご主人にご挨拶もしないで帰ってしまったので、心配していらっしゃるの。でも、どうにもなりやしない!」
「だって、折角手紙下さるんですもの、行って会っていらっしゃい。今度は、関係していらっしゃる会社の方にでも、使って下さるわよ。」
「いやよ。もう、前川さんのお世話なんかに二度とならないことよ。」
「そうお、それでも、ご主人だけには、挨拶して来るといいわ。私のためにだって、あんなにして下さったんですもの。」
「………」
新子がだまっていると、
「私も、お礼に顔出ししなければいけないわねえ。」と、とんでもないことを云い出したので、
「よしてよ。お姉さんが、余計な所へ顔を出すのは。」と、ハッキリ抗議した。
まるで、この半月ばかり、姉のために奉仕したような気がしていやだった。何から何まで、勝手なことをして(前川さんへお礼に行く)もないものだと思った。
新子は、姉との小うるさい問答を避けて、二階へ上った。そして、美和子を追い立
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