た。
 すると、新子の下りるのを待ちうけていたように、圭子が、
「前川さんから速達よ!」と、白い封筒を差出した。ちょっと、かつがれたのではないか、と思いながら、受け取った。が、まさしく裏に元園町のアドレスを刷り込んだ前川氏の手紙だった。
 その白い封筒を、サリサリと裂いたとき、新子の気持は、決して平らかなものではなかった。

[#ここから1字下げ]
いろいろ貴女に、お詫《わ》びしたいことばかりです。僕も昨夜遅く帰って来ました。一刻も早く貴女にお目にかかりたく、その上、お詫の言葉と僕の気持を聴いて頂きたいのです。今日午前中は自宅に、午後は会社におります。いずれかへ、ぜひお電話をねがいます。電話が、ご都合わるき時は、お手紙を。会社の電話番号は、銀座五六八一です。一刻も早くお目にかかりたいと思います。
[#ここで字下げ終わり]

 文句は、短かったが、新子は相手の、青年のような熱情に打たれずにはいられなかった。

        二

 手紙を読み了《お》えた新子に、
「前川さんも、東京へ帰っていらっしゃるの?」たちまち、傍《かたわら》から姉が、余計な詮索をし始めた。
 新子が、だまっている
前へ 次へ
全429ページ中215ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング