持を確かめたい未練が、切実に湧いた。しかし、美沢の心が変っていないとしても、美和子があきらめるはずはなく、結局は姉妹《きょうだい》のあさましい競《せ》り合《あい》になって、お互に気まずい思いの数々を、味わわなければならぬと思うと、今更美沢に手紙一つ書きにくく、電話一つかけにくいような、割切れないものが、心の底に澱んでいた。
 美和子が、眠そうに細目を開けた。静かに、首《こうべ》を廻《めぐ》らして、ジッと姉の視線を迎えた。
「もう何時……?」
「八時半頃じゃないかしら……」そう答えた新子の気持は、不思議なくらい、平静なものになっていて、自分でも気づかない内に、姉らしい微笑を向けていた。
「ねえ。お姉さま。昨夜《ゆうべ》よく、お休みになれた……?」寝起きとも思われないほど、ハッキリと晴々した声に、新子は、
「そうね、貴女《あなた》が帰って来て、唄を歌っていたのは知っていたけれど、眠ったふりをしてたわ。なぜ?」と、正直に訊き返した。
「ううん。」と、美和子は、身を転じてしまった。
 そうされると、新子はまた平静な気持が、グラグラとこわされかけたので、静かに床を離れて階下《した》へ降りてしまっ
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