にしたって一文も外から入って来ないんだからねえ。お前が折角送ってくれるものは、そんな風になってしまうし……」母は、堪え性のない涙をボロボロ膝の上に落していた。
 妹が妹ならば、姉も姉だった。
 新子は思わず、舌打ちの出そうな自棄《やけ》くそな気持が、胸もとへジリジリと焼けついて来た。
[#改ページ]

  心なき姉




        一

 その翌朝のことだった。
 宵の化粧を、すっかり拭き取った……そのために一層子供らしく、軽い開いた唇の間に、安らかに正しい呼吸が通《かよ》っている、美和子の寝顔を、新子は複雑な感情で眺めていた。
 肉親の姉のことも、先々の生活のことも、一切考えない、どうでも一緒になりたいと、しゃにむに[#「しゃにむに」に傍点]突進する美和子の情熱に、顔負けした新子は、一時は茫然としたが、しかし心の中は荒《すさ》み切っていた。
 もちろん、一歩も二歩も間隙のある恋愛であったにしろ、お互に理解し合った愛情を堅く信じていた美沢が、かように速《すみや》かに自分の手から離れるとは思っていなかった。
 むろん、やんちゃな妹が、何をいおうとも、もう一度美沢に会って、相手の気
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