は、
「新子!」と、おずおず呼び止めた。
 新子を姉娘のところにやることは、母としては何となく恐ろしかった。
「え!」と、探るように、母の前に、もう一度坐り直すと、母はもう涙を浮べていた。
「圭子はねえ。この十日くらい前まで、ひどくお金を欲しがって、わたしも四、五十円は出してやったんだが、いくらでも欲しがるので、お前に云われたこともあるし、ハッキリ断っていたんだが、それが十日前くらいからピッタリ強請《せび》らなくなったので……」母は、早くも姉娘を疑っているのだった。
「じゃ、お母さまは、私の送った書留を、圭子姉さんが、だまって使ったと思っていらっしゃるの……」
「まさかとは思うけれど……」母は暗澹《あんたん》としていた。
「じゃ、私お姉さんに訊《き》いてみるわ。もしそうだとすれば、お姉さん、あんまりヒド過ぎるんですもの。行って訊くわ。お姉さまに。」と、決然として立ち上ろうとすると、
「お前が訊いたんじゃ、姉妹喧嘩になってしまうんだもの。私があとで訊いておくから……。でも、そんなお金があったら、どれだけ助かったか分らないよ。先月は、美和子も随分お金を使うし……いくら、貯金を減らさないよう
前へ 次へ
全429ページ中212ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング