礼として、お金を頂いたから、その内私十円だけお小づかいに取っておいて、後は書留で送ったはずよ。」と、新子も興奮して説明した。
「知らない。初耳よ。そんなこと!」
「まあ! 着かなかった?」新子は、驚いて母の顔を見つめた。
「いやだわ。大金よ、お母さま。」
「いくら。いつ頃送ってくれたの?」
「百四十円、十日くらい前。」
「まあ!」母もあきれて目をまるくした。

        八

 母は、どうにも腑《ふ》に落ちないという眼を、新子に向けながら、
「まあ? おかしいわねえ。十日くらい前だって、一度だって、家を空けたことはないんだがねえ……」と、云いさして、台所に向い、
「おしげさん。」と、婆やを呼んだ。
「はい。」と、婆やがそこから、顔を出すと、
「十日くらい前に、家へ書留が来なかったかしら。」と、訊いた。
 婆やは、ちょっと首をかしげると、
「そうですね。いつか、上のお嬢さまが、書留らしいものを、お受けとりになったようでございますよ、たしか。」と、云った。
 そう云われて、母と新子とは目を見合わしたが、新子が、
「お母さま。じゃ、私お姉さまに訊いてみるから……」と、腰を浮かすのを、母
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