、兄がやるもんですから自分もしたがってきかないんです。この方は、オマケですな。」
「まあ、かわいいお嬢さん!」
 新子は、心からそう思った。大きな眼を早くも、クルクル廻して、人なつかしそうに、早くも新子にほほえみかけながら、子供らしい元気なおじぎをすると、傍《かたわ》らの若い叔母の手にぶらさがった。
 路子は、ぶら下がられて、中腰になりながら、
「さっちゃん、貴女、お使いが出来るかしら……出来ないわねえ。きっと。」
「ううん。出来る、何でも出来るわ。何……」
「ではねえ、ママのところへ行って、およろしかったら、応接間へいらしってと、申し上げて来てくれない……」と、祥子にいってから、兄に、
「ねえ。お兄さま、お義姉《ねえ》さまにも、今ついでに会って頂いた方がいいでしょう?」と、兄の承諾を求めた。
 何事につけても、義姉に対して気をつかっているらしい容子《ようす》が、新子の心を少し重くした。
「ああいいだろう。」前川氏はおうよう[#「おうよう」に傍点]に肯《うなず》いた。
 女の子はもう一度新子を見て、目をクルクルさせると、一散に部屋を出て行った。
 しばらくすると、かわいい足音が廊下にき
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