た。
 何だか、自分自身が、頼りなく、哀れまれて、大ゲサな感傷に揺り立てられて、容易に泣き止むことが出来なかった。
「新子ちゃん、どうしたの。新子ちゃん。」
 階下から隣の部屋へ、上って来ていたらしい圭子が、聞きつけて、びっくりしたようにはいって来た。
 姉にとがめられて、ピタリとすすり泣きは止めたものの、まだ肩がふるえていた。
「どうしたのよう。」
 容易なことで、取りみださない平生の新子を知っているだけ、圭子もこれはよほど、重大事と思ったらしく、しゃがむと姉らしく肩に手をかけて、
「ねえ。どうしたの。」と、不安そうにうかがうと、
「放っておいて!」と、新子は肉親らしい遠慮のない邪慳《じゃけん》さで、姉の手から身を引いた。
「何でもないのよ。放っておいて。お姉さんなんか、あっちへ行っちまってよう。」と、切れ切れにいいながら、また泣き沈むと、圭子はもの珍しいような、困ったような表情で、
「ほんとに、どうしたの。子供みたいに、ねえ泣くのよして。どうしたのか、おっしゃいよ。」と、無理につっぷしているのを起しにかかると、
「お姉さんの知ったことじゃないの。あっちへ行って!」力いっぱいよけられ
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