きの取れなくなった気持を、そのまま言葉の調子に表して、美和子を追及した。
「美沢さんて、いけないのよ。」
「どうして!」
「だって、日曜日ごとに会おうって、約束しちまうんですもの。」
「いつ、そんな約束したの。」
「この前の日曜日よ。あんまり、色々訊かないでよ。お姉様。」
「それで……それで、貴女いいつもり?」新子は、口が利けなくなっていたが、それでもまだ健気《けなげ》に、涙だけは抑えていた。
 美和子は、クルリとこちらへ向いた。
「美沢さんは、お姉さまに、悪いといっていたわ。でも、美沢さんもいっていたわ。新子さんは、僕と結婚するつもりはないんだって。……私は、お姉さまが、許して下されば、あの人と結婚するつもりでいるの。」新子は、茫然としてしまった。たちまち、愛人からも肉親からも、馬鹿にされたような、深い悲しみを感じた。
 彼女は、妹の前で泣いてはならぬと、グッと喉もとで、悲しみをこらえながら、
「許すも許さないも、ないけれど。だって……」と、云いさして、こらえ切れなくなり、妹から顔をそむけた。
 美和子も、涙をこらえていた。彼女は、自分が、美沢と交際することが、こんなにまで姉を苦しめ
前へ 次へ
全429ページ中203ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング