さんと結婚するつもりかと思っていたのよ。で、なんだったら……」
 新子は、いきなり真正面から、不意打に、胸を衝《つ》かれたような思いで、美和子を、じっと見据えた。
 美和子も、強い眼で、その視線を受けながら、
「私、お姉さまが、軽井沢へいらしった後で、美沢さんに会ったの。」と、云いつづけた。
 新子はそう聞くと、眼の前に立っている妹へも、また美沢に対しても、等分に、心の底から浮ぶ瀬のないような、厭《いや》な気持に暗くなりながら、思わず、せき込んで、
「それでどうしたの……?」と、訊いた。

        四

 美和子も、ハッとするほど、その瞬間に、姉の顔にはげしい影が通り過ぎ、嫉妬と憤《いきどお》りと悲しみの色が満ち溢《あふ》れたので、さすがの妹も、それ以上臆面もなく、物をいい続けることが出来なかった。
 かの女は、洋服《ドレス》のひだをピタピタたたくと、姉に背を向けて、縁の方に歩いて行き、欄干《てすり》にもたれて、ぼんやりと晴れている空に、眼を向けてしまった。
「ねえ、美和ちゃん。貴女美沢さんと、なにか約束でもしたというの? ちゃんと聞かせて、頂戴!」新子はたまりかねて、一時に動
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