い弱々しさが、生気とともに、媚々《びび》と彼女の全体から感じられた。
 新子は、よく小言をいうものの、心の中では美和子を愛していた。
 お転婆で、茶目で、母に世話をやかせるところの多い妹ではあるが、新子は姉よりも、ずーっと愛《いと》しがっていた。
 もしも、恋をしているのなら、早く様子を聞いて、最初の恋を遂げさせてやりたかった。
(誰にだって、愛されるに違いなく、どんなに愛されたって、いい娘だもの)そう思って、新子はやさしい微笑を、美和子に向けた。
 美和子は、なぜかあわてて、姉の眼をそらしながら、
「お姉さまは、結婚なさる?」と、口ごもりながら、いきなり訊いた。
「結婚するって、誰と。」
「しようと思えば、誰とだって出来るじゃないの。誰かと結婚しようと思ってらっしゃるかって、伺ってるのよ。」と、急に意地のわるい物云いをした。
「おや、こわいのね。私、結婚しようなんて思ってる人なんかないわ。あったって、なかなか出来ないもの。どうして、そんなこと訊くの?」
「ほんとうに、本心からそう思ってらっしゃるの?」
「気味がわるいわ。もちろん、本心からよ。」
「で、安心したわ。私、お姉さまは、美沢
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