の頃とても、楽しいんだもの。今日は、そら日曜でしょう。日曜は坂を上ることに決めたのよ。」
「何を云ってるのか、お姉さんにはちっとも分らないわ。」
「お姉さまなんか、軽井沢へ行って、先生なんかしているからいけないのよ。日曜日には坂の上にある家を訪ねることになっているのよ。まだ解んないのかなア。」
 これは、靴下を穿きながら、うつ向いて、小さくいった言葉であった。が、にわかに改まって、
「お姉さまは、もう軽井沢へいらっしゃらないの。」と、訊いた。

        三

「もう行かないわ。九月になったら、会社か雑誌社のようなところに、就職を頼んでみるつもりよ。」
「お姉さまが、もうずーと、家にいらっしゃるんだったら、私お願い……って、話があるんだけれど……今日じゃなくってもいいのよ。」
「貴女さえ、いそいで出かけないんなら、今日だって、いいことよ。何よ。」新子は美和子が恋をしているのだと直感した。
 ちょっと会わない間に、まるで新しい生命を吹き込まれたように、美和子は生々としていた。以前から、快活でお転婆ではあるけれど、つい一月前の美和子には無かったような、抱きしめてやりたいような、女らし
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