思わずおかしくなって後《うしろ》をふり向くと、ついぞ見馴れない、洋服をすっぽりと頭から被っていた。
 ギンガムか、トブラルコか、何かしら木綿のゴワゴワと音のしそうなものだったが、そのくせ着てしまうと、どんな絹物《シルク》でも、この味は出まいと思われるほど、ピッタリと、はち切れそうな身体の線に合って、それがむき出しの肩と、胸についているシイクな桃色のレースの飾りに調和し、小さい美和子の身体がとても色っぽく見えるのであった。
「いつこさえたの、お手製じゃないわね。」
「相原さんの作る銀座のクロバーよ。」
「あんなところじゃ、木綿ものだって、シルクと同じくらい、仕立代がかかるんでしょう。」
「布地《きれじ》は、全部で三円五十銭しかしないのよ。仕立代は、相原さんの方の、つけにしておいてもらったの。」
「そんなことしたら、悪いじゃないの。仕立代いくらくらいなの。」
「十円くらいでしょう。……ねえ、似合うわね、シルヴィア・シドニイみたいじゃない?……」
「何を、そうお調子に乗って、浮々しているの。貴女少しおかしいわねえ。」
「ふうん。」と、ちょっと恥かしそうな、含み笑いをしながら、
「だってえ。こ
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