みと手足をのばし、眠れた朝の、頭の明らかさで、ひどくわが家が、しんみりと楽しい場所に思われた。
静かに頭をめぐらすと、淡いピンク色のシュミーズ一つで、朱塗りの鏡台を光線の都合を計って、畳の真中に持ち出して、化粧をしている美和子の姿が、ピチピチした新鮮な、一枚の油絵のように眺められた。
パチパチ眩しそうに、愛らしく目ばたきしながら、姉の方をチラと見て、
「お姉さま、死んだ人のように眠ってたわよ。」と云った。
美和子の手元から、甘い香料が強く匂って来た。
「美和ちゃん。急に綺麗になったわねえ。」新子は、驚きをそのまま、言葉に表して云った。
一心に鏡の中を見入りながら、横顔で、満足そうな笑顔を見せて、
「みんながそう云うのよ。だから少し嬉しがってるの。」と云うのを、
「顔でうぬぼれるのはおよしなさいね。みっともないから……」と、云いながら、それを機会《しお》のように、身を起した新子はまたびっくりしてしまった。
美和子の鏡台の前には、実にぜいたく[#「ぜいたく」に傍点]な化粧品が美々しく並んでいるのだった。
「あーら、貴女《あなた》。こんないいものを使っているの。」
新子自身、教養
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