すわ。貴君《あなた》も、ご一しょであったそうですね。そりゃ、偶然ご一しょになったのでしょうけれど、それを貴君が私におかくしになったことは、困りますわね。もちろん、あの女がそうさせるように、仕向けたんでしょうけれど……。ほほほほほ、私がやきもち[#「やきもち」に傍点]なんか焼いているとお考えになると、それは貴君の誤解ですわよ。私、貴君がまさかあんな女を、何とも考えていらっしゃらないこと、よく分っていますのよ。私、あんな人に対して、やきもち[#「やきもち」に傍点]を焼くほど、自分をみじめたらしく考えたくないんですの。その点では、充分貴君を信じていますわ。多分、私に対するお話をあの女となすったんでしょうね。それは、よく分っていますの。でも、私、貴君があの女と話をなすったことをおかくしになったということが、気に入らないんですの。……」
(悪魔が吹かせる風は、誇《プライド》という声がすると云うが、この女も悪魔だ!)準之助氏は、自分のした悪事を悔いるよりは、妻の人を人とも思わざる思い上った考え方を憎悪する心が、燃え上った。
夫人は、平然として云いつづけた。
「夏休み中、家庭教師がなくっても、差支
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