一つの窓を開けて外を見ながら立っている準之助氏は、
「やあ! よく降る!」と、盛んな自然の大暴れに、嗟嘆《さたん》の声をあげていた。
家の中は、不気味に薄ぐらかった。椅子も卓子《テーブル》もなく、ただ粗末な食堂用らしい曲木《まげき》細工の椅子が、ただ一つ塵にまみれて、棄て置かれてあった。
この薄闇は、普通の夜の暗さなどよりも、ずっと気持がわるかった。そこここの隅々から、奇怪な幻像でもがうごき出しそうな気味わるさを持っていた。
ある恐怖と圧迫を感じて、新子は扉《ドア》口ではいりわずらっていた。
その上、ときどき窓からサッと流れ入る電光の紫線は、いよいよ部屋を物すごく見せた。
新子が、そこに立ちわずらっているとき、電光の閃《ひらめき》とほとんど同時に、硝子《ガラス》板を千枚も重ねて、大きい鉄槌で叩き潰したような音がした。たしかに、近くへ落雷したのだと思うと、新子は心が一層寒くなった。
準之助氏も、扉《ドア》口に人形のように、息を呑んで、立ちすくんでいる新子を見ると、彼もまたある胸苦しさを感じているらしく、すぐには呼び入れようともしなかった。
「こわいわ!」だまっていると、息づま
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