まま子供達の面倒を見て下さいませんか。」と、云った。
「はア。」
 新子は、準之助氏の長い無言の散歩が、何を意味していたかが、そのときハッキリと分った。
 主人として、新子の釈明も求めず、また良人《おっと》として妻のために弁明もすることなく――そういうことは、新子に不愉快な感情を再現させることだと知って、ただ新子の気持をいたわり、落ちつかせ、平静をとりもどすまで、ブラブラと散歩をして、折を見て結論だけを云った準之助氏の言葉を、新子はうれしく思った。
「妻は、もう何でもありませんよ。貴女《あなた》も、さっきのこと、もうお忘れになって下さいませんか。」
「はア。奥さまにお詫びに行こうと思っておりますの。」
「そうですか、それはどうもありがとう。それでホッとしましたよ。」急に、準之助氏は、明るく微笑した。

        四

「ほんとうに居て下さるでしょうね。大丈夫でしょうね。」準之助氏は、もう一度くり返した。
「私の方でおねがい致すことですわ。」新子は、こんなに甘えさせられては、いけないと思いながらも、嬉しくなった。
「貴女が、いらっしゃらなくなると、小太郎も祥子《さちこ》も、ガッカリ
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