しますよ。僕もガッカリします。どうぞ、これからも、つまらないことは、気にかけないで、のびのびと貴女らしく、子供の面倒を見てやって下さい。どうぞ、これは改めて僕のお願いです。」若者のように、情熱のこもった言葉だった。
「お話は、これですみましたが、ついでに、この次の丘の上まで行きましょう。軽井沢が一目に見えますよ。おつかれでなかったら、ご案内しましょう。」にわかに、少し硬くなった声が――しかしまことに、何気なく新子を誘った。
 準之助氏は、新子が、病的にわがままな夫人と、いつかきっと衝突することを心配していた。しかし、聡明な新子のことだから、うまくバツを合わせてくれるだろうと思っていたのが、思ったよりずーっと早く、事件を起してしまった。小太郎から、事件のあらまし[#「あらまし」に傍点]を聴いたとき、これはいけないと思い、新子がこのまま去ってしまうことを考えると、身内のどっかを抉《えぐ》り取られるような気がした。それほど、新子はもう、彼の心の中に深くはいっていた。
 だから、新子と会って、新子に止《とど》まってくれるように頼むまでは、何かが咽喉下に突っかけて来ているような感じだったが、こん
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