っておさらいをしていらっしゃい!」と、いった。
「だってえ、おさらいといっても、僕は今日まだ、何にも先生にしてもらっていないんだもの。」と、鼻にかかった声でいうと、夫人はすぐ威丈高《いたけだか》に、
「あなた、ママの云うことを近頃聞かなくなったわねえ。早く行って、おさらいをしていらっしゃい!」と、これも新子への当てつけに、聞えた。
小太郎は、不平らしく、しかも新子の方を、心配そうに、ちらっと見て、部屋を出て行った。
新子は、こんなときには、あっさりと謝《あやま》った方がいいと思ったので、
「私、何の気もなく、ご注意したので、奥さまのおっしゃるような、そんな気持で、ご注意したのじゃございませんわ。」と下手に出ると、夫人は新子の顔を、ジロジロ見ながら、
「仕度が間違いで、支えるという字をかくのが正しいにしたところで、ここにたいへんな大問題がございますわね。」と、夫人は前よりも、更に開き直った口調だった。
新子は、夫人が更に何を云い出すのかと、呆《あ》っ気に取られて、夫人の顔を、ぼんやり見上げていると、
「子供の教育についてですねえ……」と、改まった言葉に、
「はい。」と素直に受けると
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