すのこそ、おかしいと思いになりません。それから、大統領のリンコルンだって、本当はリンカーンでしょう。でも、リンコルンというのも、それで何だか、昔風でなつかしくっていいじゃありませんか。」
「はあ!」
「日本の言葉にだって、間違ってそのまま通用している言葉が、沢山あるでしょう。殊に仕度という字なんか、十人の中で七、八人まで、仕度とかいていやしませんかしら。」
「はあ。」
「十二、三の子供の綴方に、仕度と書いてあったからといって、それを一々直すには及ばないと思いますが。」
「はあ。」
「もっとも、子供の間違いを直すのと同時に、親の間違いを直してやろうと、おっしゃるのなら、これはまた別の問題ですが……」
「まあ! 私に、そんな……」
「だって、小太郎を、私のところへおよこしになったのは、貴女でしょう。」
「まあ決して……」

        四

 そこまで、夫人が、いったとき思いがけなく小太郎が、ひょっくり部屋の中へはいって来た。
 子供心にも、新子のことが心配になり、先生のために、何か一言釈明したかったのであろう。夫人はすばやく、それを見つけると、
「小太郎さん。貴君《あなた》は、下へ行
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