。二人とも、貴女がてこずるような子じゃないけれど、問題は姉よ。」
 路子は、新子に比べると、冴《さ》えたところはないが、丸顔で眼も唇もほっそりしていて、豊かな黒髪を短く切って、洗練された衣裳の好みや、金持の娘にしてはすましていない点などで、何となく人好きがした。弾力に充ちた身体は、しなやかで、いかにも快活そうだった。
「お姉さまって?」
「つまり、子供のお母さまよ。」
「じゃ、お兄さまの奥さま!」
「ええ。」愛嬌《あいきょう》ぶかい路子の茶がかった眼が、ちょっと皮肉な笑いをうかべた。
「それは、どういう意味で!」
「貴女、私の義姉《あね》とお会いになったことないかしら。」
「一度くらい、お目にかかりましたわ。」新子は、いつか劇場か何かで、路子といっしょにいるときに、ちょっと挨拶したことを思い出した。
「そうだったかしら。私、貴女なら辛抱して下さると思うけれど、……」
 路子は、かわいい苦笑をつづけた後、
「兄は、とてもいい兄ですの。温良で、物分りがよくって、品行方正で……自分の肉親の兄をほめるのはおかしいけれど……」と、路子はしばらくは顧みて、他をいう形だった。
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