レディ第一
一
(辛抱とは、どういう意味の?……)新子は、路子と視線を合わしたまま、先を促した。
「兄は、貴女《あなた》もご存じのとおり、長く米国におりましたから、すっかりレディ・ファストなのよ。それもすこし極端なんですの。それに、義姉《あね》は、私の父には主人筋に当る子爵家のお姫さまでしょう。兄も、死んだ母も、三拝九拝して、来て頂いたんでしょう。だから、家じゃまるで、女王さまのような勢いよ。兄なんか、一生文句の云えない呪文《じゅもん》にかけられているように、頭が上らないのよ。前に来ていた家庭教師の方は、義姉《あね》があまりに、家庭教育ということに、理解がないと云って憤慨して出てしまったのよ。だから、貴女は義姉のすることを出来るだけ気にしないことが、大切だと思うのよ。そういうことは聡明な貴女なら何でもなくやって下さると思うのよ。」
「お義姉《ねえ》さまは、全然お子様達の勉強に、無関心でいらっしゃるの、それとも何かにつけて、干渉なさるのですの。」と、新子は訊いた。
「どちらでもないの、まるで気まぐれなの。全然無方針でいて、それで、ときどき何か云い出すらしいのよ。
前へ
次へ
全429ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング