嬢の路子は、さっぱりした趣味のよいアフタヌーンを被《き》て、新子を欣《よろこ》び迎えてくれた。
絹ばりの壁や、カーテンの快い色彩、置き棚や卓子《テーブル》の上に飾られた陶器や、青銅の置き物や、玻璃《はり》製の細工物などの趣向のこった並べ方が、その豊かな暮しを現して、すべてがゆったりと溶け合っていた。窓からは、手入のよく行き届いた庭の一部が眺められ、雨に咲いている、くちなし[#「くちなし」に傍点]の強い甘い匂いが、ときどき、かすかにうっとりとするほど、部屋の中に揺れて来るのであった。
三、四年前までは、この家へ二、三度遊びに来たこともあり、こうした応接間の空気などにも、特別に感じ入りもしなかったのであるが、やや切端《せっぱ》つまった就職者として来ているせいもあって、新子は何か不思議な圧迫を感じるのであった。
「今年小学校五年になる兄の子が、あまり甘やかしたせいか、頭はそんなにわるくないんだけれども、学校が出来ないの。」
「男のお子さん……」
「ええそう。いたずらっ子だけれども、性質は素直なの。それから、小学校三年の女の子、この方《ほう》は、どちらでもいい。この方は、面白いかわいい子よ
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