物なども一人でやってくれるので、新子はたよりにしていた。
 婆やに、昼のお惣菜の指図をしてから、母の居間に、さっき出かけた美和子がぬぎばなしにしていった着物を片づけていた。
「ねえ。お前が働くということ、圭子は知っているかい?」茶箪笥《ちゃだんす》の抽出《ひきだ》しから、手提金庫を取り出して、さっきのお金をしまい込みながら、母が新子に云った。
「いいえ。まだ。」
「一度、相談してみたら、どう? 圭子には、また何かいい考えがあるかもしれないもの。」
「いいですわよ。」
「なぜ。圭子は、長女だもの、お前を一番に働かすなんて法はないわよ。」
「いいのよ。お母さん! お姉さんには、またお姉さんとしての考え方があるのよ。」
「だって、そりゃ――お前の決心を聴いたら、圭子だって、何というか分りませんよ。」
「私、話がきまってから、お姉さんに報告するわ。お姉さんはお姉さん、私は私だわ。じっとしていられない性分ですもの、つまり苦労性なのよ。私は、おおいに働くわ。」

        七

 それから、三時間ばかりの後に、新子は麹町元園町の前川邸の応接間にいた。
 友達の訪れを、心待ちにしていたらしい令
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