柔らげるように、たちまち子供らしく無邪気に振舞うのであった。
「私、動物園とても好きよ。だから、今の活動もとても見たかったの。ほんとうに、今日は楽しかったわ。私、お友達がみんな避暑に行っているから、とてもつまんないの。新子姉さんはいないし、圭子姉さんは、芝居に夢中だし……」
「しかし、美和子ちゃんは不良だね。ここから、弥生町へ抜ける道を知っているし、四谷に住んでいて、梅月の蜜豆なんかたびたび喰べに来るのかい?」
「だってえ、そりゃ西片町にお友達があったのよ、それから桜木町にも仲よしがいたんだもの。だから、この道は随分歩いたのよ。」
「だって、西片町から桜木町なら、逢初橋へ出た方が近いじゃないか。」
「そら、用事のときはあっちを歩いたわよ。散歩のときは別よ。散歩って近道することじゃないでしょう。」
二人は、そんな無駄口を利きながら、清水堂の下の石敷の小径を歩いていた。
そこらあたりは、樹の茂みで闇が濃く、一人の人にも会わなかった。
「貴君は、不良だなんて云ったけれども、善良な紳士ね。」と、美和子は云った。
「なぜさ……?」
「なぜでも、それに臆病ね。」
「何を生意気な、子供のくせに…
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