し不良ね。」と、アッサリ肯定した。
「君は、正直だからいいね。」
「そこなんか、つまり素敵なんさ。正直でうぬぼれが強くって、だから失恋なんかしたことないの。」
「失恋なんかしたことないって、第一恋愛したことあるのかい。」
「無いわ、でも、すぐあるかもしれないわ。」
「美和子ちゃんの好きなタイプの男って、どんな人?」
「例えば……」そう云いかけて、たちまち頬を赤くしたかと思うと、匂うほど、女になってしまうのだった。
美沢は、美和子と話していると、自分の心が楽しく弾み上って来るのを感ぜずにはいられなかった。
彼は、美和子を女らしく感じた途端、脚をひっこめて、たばこに火をつけた。
「あたしにも一本……」そういって、美和子は、美沢のさし出したチェリイの箱から、一本とり出して、可愛い手付で火をつけると、
「ねえ。活動《シネマ》に行かない?」と、促した。
「こんな真昼に、暑いじゃないか。」
「冷房装置のある所へ行けば、ここよりは、よっぽど涼しいわ。」
美沢は、苦笑しながら、
「美和子ちゃん、僕も不良だぜ。あんまり、くっついていると、こわいぜ。」
「どうするの?」
「さあ! 何をするか……」
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