へ上ると、新子からの手紙を机の抽出《ひきだ》しにかくした。
 後から静かに上って来た美和子も、いきなり男の部屋を訪ねて来た恥かしさに、落着けないらしく、
「大きいお姉さまが、二十五日からお芝居をしているのよ。私初日に見たけれども、割と評判がいいからもう一度見たいの。でも、一人で見るのもつまらないから、美沢さんでも誘おうと思って来たのよ。坂を上ると、とても暑いわねえ。」と、クルリと美沢に背を向けた。そしてコンパクトを出して、顔を直し始めた。
 ボイルの洋服が、汗でジットリと背について、白い首筋と黒い断髪と、全体がなにか親しい、生々《なまなま》しい感じであった。
 美沢は、妹にしてやるように、団扇《うちわ》でその背をハタハタと煽いでやりながら、
「姉妹《きょうだい》って、どこか似ているもんだなあ! 貴女《あなた》と新子姉さんとは、顔立ちはまるで違うから、面と向って話していたんじゃ、ちっとも気づかなかったけれど、声だけ聞くとまるで同じだ……」
「そうお、そんなに似ている?」
「似てるよ。さっき、姉さんかと思ってびっくりしたよ。それに美和ちゃんらしくもなく気取っていたからさ……」
「だって、貴
前へ 次へ
全429ページ中135ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング