を、ありがたく見送りながら、(いい方だわ。あの方が、私のことを心の底でどう思って、いらっしゃるにせよ、とにかく、いい方だわ。こんな問題に、こちらをちっとも、不愉快にせずに、あんなに美しくお金を出して下さるなんて!)と、思うと、たまらない気持になって、祥子にいった。
「祥子さんのお父さまは、何ていい方でしょう。ほんとうに、いい方だわ。」
何だか、祥子に頬ずりしたい気持だった。祥子も、その大きい眼をかがやかし、
「そう。じゃ、先生もパパ好き。」
「ええ大好き。」
「祥子も好き、ママよりもズーッと好きよ。」
六
その日の午後、木賀子爵は急に東京へ帰ることになった。新子が小太郎の相手をしている時に、女中が知らせに来たので、新子も小太郎と一しょに、玄関まで見送って出た。
「やあ! また、お目にかかりましょう。お元気で……」木賀は、明るい微笑と遠慮のない調子で、新子に云った。
相変らず、大公妃のようにすましている夫人が、木賀がそう云うと同時に、いやな一瞥《いちべつ》を新子に送った。
木賀が自動車に乗ってしまってから、夫人は、あわてて呼び止めた。
「逸郎さん。私、やっぱり
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