ましょう。」
「先日、あんなお礼まで、頂いて。でも、あれは、母の方へ送りましたのですが、母は芝居なんかに、とても理解がありませんから、恐らく姉の方へは、ちっとも廻らなかったと思いますの。」新子は、真赤に上気しながら弁解した。
「いや、ごもっともです。お年寄は、女優なんかになるといえば、恐らく大反対でしょう。」と、そういってから小さい娘に、
「祥子や、安心しなさい。先生への電報は、わるい報知《しらせ》じゃなかったんだよ。パパは、ちょっとご用事が出来たから、『コンコン山のきつね』は、また後にしようね。」祥子が、素直にうなずくのを新子は、
「今度は、私がお読みしましょうね。」と準之助氏の膝にある本を受けとった。
「四谷のお宅は、谷町でしたね。谷町の何番地ですか。」
「二十七番地でございますの。」
「お姉さんのお名前は?」
「圭子でございます。」
「ケイ、どんなケイです。」
「土を二つ重ねた。」
「分りました。じゃ、出来れば今日中に届くように。遅くとも明日午前中に届くように。スリー・ハンドレッドでいいんですね。」と、念を押して、前川氏は部屋を出て行った。
 新子は、前川氏の後姿《うしろすがた》
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