た。
「あんまり唐突で、私にも、何が何だか分りませんの。早速問い合せの電報でも出してみようかと思っていますの。ほんとうに出しぬけで、……でも、ご心配して頂く筋じゃございませんの。」と、新子は、しっかりした態度で、準之助氏の好意を斥《しりぞ》けた。
準之助氏は、新子の微笑にまぎらしている憂鬱そうな顔を、なおしばし見つめていたが、
「貴女にも分らないとすれば、どうともしようがないですね。」と、いった。新子は、笑いながら、うなずいた。
「じゃ、先生電報が来ても、ここのお家にいるんでしょう。」
「ええ。いますとも、祥子さんと一しょでなければ、東京へ帰りませんわ。」
「じゃ、すぐその間い合せの電報を打っていらっしゃい!」と、準之助氏がいってくれたのを機会に、新子は祥子の部屋を出た。
三
新子は、自分の部屋へ帰って来たが、姉の無理解に、腹が立って仕方がなかった。自分に、三百円の大金が、どうして作れると思っているのだろう。百四十円という金を送ったので、それに味を占めて、前川さんに借りてくれとでもいうのなら、姉にも似ず、あさましい考え方だと思った。
無性に腹が立って、問い合せ
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