をでも作るわけでもあるまいに……。
「どうなすったんです。南條さん!」準之助氏に、声をかけられて、新子はハッと狼狽した。
「いいえ、つまんない用事なんですの。電報なんか打たなくっていいことなのですの、……ご免なさい祥子さん。先を読みましょうね。」
 ずいぶんながくかんがえてたのね。だから、カンガエールカンガエールカンガールて、だれいうとなしにそういってしまったのさ……
 だが、もう新子の声は、かすかにふるえて漫画の説明を読むには、一番不適当な声になっていた。

        二

 祥子も、新子の声のふるえに気がついたと見え、もう漫画からは眼を離して子供らしく気づかわしげな眼を、新子の顔に向けていた。
 新子は、それでも祥子の注意を絵本に向けようとあせって、また一ページばかりも、読みつづけた。
「南條さん。本は、それくらいにしてどうですか。ねえ、祥子もういいだろう。」と準之助氏が口を出した。
「ええ。」と、祥子も父の意を汲んで素直に、うなずいた。新子は泣きたいような気持で、本を下に置いた。
「南條さん、不意の電報なんて、よくないことに定《きま》っているものですが、一体どういう報せなん
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