いるようにお考えになってはいやですわ。」と、新子は云った。
木賀は、新子の慎みぶかい予防線に、感心しながら肯いた。
新子は、自分が準之助氏から、ある危険を感ずるように、他人の眼にも、それが露わに映っているのかと思うと、いやだった。
だから、子爵のそうした観察にハッキリ抗議したのである。
きのうなんか、わずかに傷ついただけなのに、あの方はあんまり、あわてすぎていた。
(やっぱり、あんな不当な謝礼は、頂くのではなかったかしら)金銭の収受は、男女の間をたちまち接近させるものではないかしら、と思ったりした。
白樺の繁みをぬけて、三人が母屋に近づいた時、バルコンの上で、お茶を飲んでいる準之助夫妻を、小太郎が、いちはやく見つけて、
「パパとママが、あすこにいるよ。」と、遠くから指さした。
前川夫妻は、まだこちらに、気が付かないようだった。
「とても、円満な夫婦のようじゃありませんか。」と、木賀子爵が、微苦笑しながら云った。
「ご円満なのでしょう。」と、新子は、ちっとも皮肉を交えずに云った。
「僕行って、お茶をいただく!」小太郎は、一散に建物の方へ急いだ。
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