じゃないんでしょう。それなら、いろいろありますよ。」
「ほほほほほ。だから、安心したと申し上げたじゃありませんか。」
「何もなかったら、心配して下さるんですか。」
「ええ……」といって、すぐ(だって、前川夫人のお相手なんかだけじゃ、お可哀そうですもの)と、いおうと思ったが、小太郎が居るので、笑いながら黙ってしまった。
「僕の方こそ、心配していますよ。貴女のような方が、こんな腕白坊主の相手ばかりしていらっしゃるんだったら……」
「まあ。ひどいことをおっしゃるわねえ。ねえ、小太郎さん!」
「逸郎兄さんは、男の人には、口がわるいんだよ。僕だって、男だろう。」と、小太郎がアイスクリームを、スプーンで口に運びながら、大人のように云ったので、新子も木賀も笑い出してしまった。
「私には、小太郎さん達をお預りしているのが、ほんとうに楽しい仕事なんですもの。だから、案じて頂かなくてもよろしいんですの。」と、新子が微笑で云うと、
「うむ。うむ。」と、子爵は、ちょっと真面目な表情になって、「貴女は随分勝気でいらっしゃいますね。」といった。
「なぜでございますの。」
「前川夫人《マダム・マエカワ》に泣かされな
前へ 次へ
全429ページ中114ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング